安心できる医療をめざして
2024年4月より、院長を拝命いたしました。これまで奈良医療センターが担ってきた診療路線を引き継ぎ、さらに内容を発展、充実させて行きたいと思います。すなわち結核、神経難病、重心などセーフティーネット系医療を主軸とし、呼吸器内科診療、てんかん、機能脳神経外科、発達障害(小児神経科)など他病院では重点的に行っていないが、社会にとって重要な分野の治療をより専門的に行えるように、その分野のスペシャリストを集め、さまざまな要望にお応えいたします。特に、てんかん診療につきましては、2010年にてんかんセンター開設、2021年奈良県てんかん診療拠点病院に指定され、奈良県におけるてんかん診療の中枢としての役割が担えるように整備してまいりました。1924年ハンス・ベルガーによるヒト脳波の発見からちょうど100年目に当たる今年、長時間ビデオ脳波モニタリング検査を長年おこなってきた実績をもとに、当センターでもてんかん外科を本格的に開始することになりました。治療の選択肢が増えることになり、てんかん診療にさらに寄与できると思っています。
これまでにない診療が求められることは、近年しばしば見受けられます。2020年に始まり、ようやく収束したかに見えるCovid-19感染症もそのうちの1つです。Covid-19感染症で当院はいち早く総員をあげて取り組み、地域で一定の役割を果たせましたが、いつ何時これが再燃したり、別の新興感染症が上陸するかもしれません。このような事態に対して当院もCovid-19感染症での経験を踏まえて対応するつもりです。さらに2024年は、能登半島地震が起こり、災害時の医療提供についても、重要視されています。当院では障害のある方(特に重症心身障害者)を大規模災害時に受け入れる準備をしています。奈良市内2つの重症心身障害者施設とのあいだで「災害時における療養介護事業所のある医療機関への入院に関する協定」を締結し、昨年は奈良市総合防災訓練へも参加いたしました。災害時においても当院の役割を果たせるようにいたします。また、奈良県の地域医療構想の中でも、当院に何ができるかついて検討し、実行していきます。奈良県立医科大学付属病院や奈良県総合医療センターなどの3次救急は「断らない病院」として最も重要です。しかし、両病院から下り搬送として患者を受け取る2番目の病院が、この構想の成功の鍵を握っていると考えています。当センターは奈良県立医科大学とは患者受け入れ協定を結び、奈良県総合医療センターとは同院の救急ネットワークに参加して転院を受け入れ、2番目の病院として継続治療や急性期リハビリを行っています。さらに在宅や施設、クリニックからも軽症の救急を受け入れて、地域の救急医療に貢献いたします。
今年は桜の開花が遅く、やっと4月に入って一斉に咲き始め、あっという間に満開となりました。多くの花を見ながら新年度をスタートさせることができ、勇気付けられるとともに身が引き締まる思いです。これまで当院が行ってきた診療をさらに充実させ、地域の要望に耳を傾けながら安心できる医療を提供できるように、力を合わせて鋭意努力してまいります。
令和6年 4月
独立行政法人国立病院機構
奈良医療センター
院長 永田 清