てんかんセンター

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薬でなかなか良くならないてんかんや、手術のできないてんかんの治療法として、ケトン食の食事療法を取り入れることがあります。ケトン食とは体内にケトン体を多く作り出す食事ですが、ケトン食についてケトン体とは何かを具体的な食事内容も含めて説明します。

ケトン食がてんかんの治療に良いとされる理由

ケトン食の目的はβ-ヒドロキシ酪酸、アセト酢酸、アセトンといったケトン体を体内に促すことです。
ケトン食療法の抗てんかん作用について明確になっていませんが、高脂質、低糖質により体内のケトン体が増加し、ケトン体により脳の神経興奮性伝達物質グルタミン酸からグルタミンへの変換が、グルタミンが神経細胞内で神経抑制性伝達物質GABAに変わることがてんかん発作の改善につながっているのではないかと言われています。難治てんかん患者の約5割がケトン食治療により発作頻度が50%以上減少するとの報告もあり、眠気などの抗てんかん薬にありがちな副作用がないのが利点です。


ケトン食療法イメージ(作用は諸説あり)

ケトン食療法のイメージ

ケトン体産生のしくみと糖と脂肪からのエネルギー産生のちがい

食事摂取時は、糖質は脂質より優先してエネルギーとして利用されます。糖質がエネルギーとして利用される際にはケトン体は産生されません。脂質は分解されて血中に入り各組織へ運ばれますが、糖質からのエネルギー量が不十分な場合に、脂肪酸となってエネルギーとして利用されます。この時、肝臓でケトン体が産生されて血中に放出され、筋肉や脳に運ばれ、それぞれの臓器で重要なエネルギー源となります。

ケトン食の種類

【古典的ケトン食】

最初の2日間の絶食後にケトン比*1を3:1~4:1に上げ、水分制限やカロリー制限を行う方法です。
*1 ケトン比=脂肪(g):[炭水化物(g)+たんぱく質(g)]

【中鎖脂肪酸(MCT)ケトン食】

摂取する脂質のうちの多くをケトン体が産生しやすい中佐脂肪酸油(MCT)にする方法です。

【修正アトキンズ食】

炭水化物を10~20gに制限する以外は水分、たんぱく質、カロリーの制限をしない方法です。

【低グリセミック指数食】

摂取する炭水化物の多くを血糖値があがりにくい、すなわちグリセミック指数が低いものにする方法です。

三大栄養素エネルギー比率

上記の他に施設独自で実施している方法もあります。

SEC(Simple,Easy and Custmizable)法
大阪母子医療センター独自で実施しているもので患者個々の年齢・性別・体格から必要エネルギーを設定し、ケトン値*2をあげていく方法です。絶食や水分やエネルギーなどの制限を必要としません。食品の目安量が把握でき、ケトン値を上げる食材や市販品、レシピが豊富に紹介されており、食べられる食品の幅を広げることが出来るため、継続して実施しやすくなっています。
*2 ケトン値=[0.9×脂質(g)+0.46×たんぱく質(g)]/[糖質(g)+0.1×脂質(g)+0.58×たんぱく質(g)]

ケトン食実施による副作用

ケトン食を行う際には、糖質の摂取量を制限し、大量の脂質を摂取することで栄養学的な副作用をきたす可能性があることに留意しながら行うことが重要です。
(ケトン食導入時)
低血糖、嘔吐、下痢
(ケトン食導入後)
アシドーシス、高尿酸血症、低カルシウム血症、高コレステロール血症、 低カルニチン血症、腎結石、便秘など

ケトン体のチェック法

ケトン食開始後その効果判定、効果維持のために血液・尿中のケトン体濃度をモニタリングすることが必要です。
(血中ケトン体検査)
ケトン体の中で比較的安定しているβ‐ヒドロキシ酪酸(BHB)を用いて行っています。
BHBを2~4mmol/L以上に保つように調整します。
(尿中ケトン体検査)
尿中ケトン体の測定は検尿テープを用いて簡便に実施できます。
尿中ケトン体は、(3+)~(4+)を目安としています。ただ、尿中ケトン体はアセト酢
酸(ACA)を反映しており、血中ケトン体検査の血中BHBと必ずしも相関しているわけではありません。

ケトン食の実際

当院で、ケトン食導入入院を初めました。初めて導入した症例を紹介します。
症例:難治てんかん患者。ケトン食導入のため16日間入院。
SEC法を参考に1~2病日…ケトン値1、3~4病日…ケトン値2、5病日以降…ケトン値3でケトン食を提供しました。


●提供した食事例

食事例
食事例
食事例

【参考書籍】

参考書籍