てんかんセンター

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TEL 0742-45-4591(代)

2024年4月から、3代目のてんかんセンター長を拝命いたしました。3月までの20年以上、奈良県立医科大学附属病院でてんかんの薬物治療および外科治療をおこなってきました。当院のてんかんセンターは2010年に開設され、他院からの紹介患者さん、通院される患者さんの数や、長時間ビデオ脳波同時記録検査数は全国有数の規模に成長しておりますが、これまで、てんかん外科治療の体勢が十分に整えられず、外科治療が必要な患者さんは基本的に奈良医大病院に紹介する必要がありました。診断は当院、外科治療は奈良医大病院という連携は十分できていたとは思いますが、長年てんかん手術を行ってきた私自身は、薬物治療の初期段階からてんかん外科医あるいはてんかん外科治療を間近で見ているてんかん診療医が関わる重要性を痛感しており、今後、当てんかんセンターで、初期治療からてんかん外科治療まで、継続してひとつの病院で完結できることは、患者さんにとって大変大きなメリットになると思います。

 

「外科医は手術をしたがる」というのはよく聞く風聞ですが、私は手術が好きな外科医ではありません。手術室での手術の最中だけではなく、計画を立てるところから始まり、術後1-2年経って結果がはっきりするまで、患者さん・ご家族と共にずっと緊張状態が続きます。しんどい仕事で、できればだれかに代わってもらいたい。しかし手術をしないと目の前の患者さんの発作がよくならない、患者さんの人生が好転しない。振り返ってみるとそんな責任感で手術をしてきたと思います。これまでのべ500人以上の患者さんが私を信じて私の手術を受けてくださいましたが、経験が多くなると、その有効性を実感することが多くなるだけではなく、限界(効果が期待通りでないことと手術のリスク)に直面することも多くなります。それら患者さん自身から教わった、教科書や学術論文を読むだけではわからない多くの知識を文字通り体得して、いまでは、目の前の患者さんに本当に必要かつ安全な次の治療はなにか、自信を持って患者さんに提案することが出来ていると自負しています。

 

当院てんかんセンターのもうひとつの特徴は、長時間ビデオ脳波中、専属の複数の優秀な脳波技師が(日勤帯のみではありますが)ビデオ脳波の常時観察と解析を行っていることです。この長時間脳波は、発作が起こったときの脳波とその症状を同時記録することができる唯一の検査ですが、発作時の脳波だけではなく、発作間欠期(発作が起こっていない時間)の脳波にも非常にたくさんの情報が詰まっており、その解析には、大変な時間と労力が必要です。奈良医大では私自身が行っておりましたが、外来、手術など診療の合間にすべての脳波とビデオを解析することは難しく、外科治療の評価のための患者さんに限るなど、検査数を制限せざるを得ませんでした。当センターでは、優秀な脳波技師のおかげでその制限がなく、検査の対象は、発症してすぐの患者さんや、もしかしたらてんかんではないのにてんかんと診断されているかもしれない患者さん、薬がこれであっているのかどうか知りたい患者さんなど広範囲で、てんかんの診断や治療をより正確でより効果的なものにするために、積極的に行っております。

 

これまで、てんかん外科医としての気持ちばかりを述べてきましたが、もちろん私自身、外科治療を前提とした患者さんだけを診療しているわけではありません。てんかん患者さんのうち、薬剤を内服することで発作がなくなる患者さんの割合は60%強といわれていますが、これは、適切な診断と治療がされることが前提です。残念ながら、効果が期待できる薬剤があるにもかかわらず、それが選択されずに発作と付き合っておられる患者さんや、患者さんのライフイベント(受験、運転免許取得、妊娠/出産、就職など)が考慮されない治療が行われているケースにも、まれならず遭遇します。てんかんという病気は有病率が約1%、本邦に100万人の患者さんがおられる非常にありふれた病気であるにもかかわらず、てんかん専門医はまだまだ少なく、多くの患者さんが専門医にたどり着けていない、あるいは、てんかんを診療してくださっている専門医以外の先生方に、我々が(おこがましいですが)お手伝いできていない現状があるということです。当院は、都道府県にそれぞれひとつずつ指定されているてんかん診療拠点病院であり、てんかんの専門的診療のみならず、地域の患者さん/ご家族、医療機関、学校などへ、てんかんに関わる様々な情報を発信する義務を負っています。診療だけに注力するのではなく、奈良県のてんかん患者さん/ご家族全員が幸せに過ごせるように、多方面の活動を積極的に行っていきたいと思います。

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奈良医療センター
てんかんセンター長 田村 健太郎